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飲食店経営者が注意すべき労働問題と予防策

はじめに

飲食業界は人材不足が深刻化している業種のひとつです。慢性的な長時間労働やシフト管理の煩雑さ、アルバイト比率の高さなどから、労務トラブルが発生しやすい環境にあります。実際、労働基準監督署による是正勧告や労働審判に発展するケースも少なくありません。また、慢性的な人材不足への対応として、外国人労働者に依存する店舗も増えていますが、言語や文化の違いも相まって労務トラブルは複雑化しています。

飲食店に多い労務トラブル

(1) 長時間労働と残業代請求

飲食業界では「営業時間が長い」、「人員不足」という要因から、長時間労働が慢性化する傾向があります。その結果として、問題化しやすいのが残業代の未払い請求です。例えば、固定残業代を導入しているものの就業規則や雇用契約書に固定残業代として認められるための適切な記載をしていない場合、労働者から「固定残業代は無効」と主張され、固定残業代として支給していたはずの賃金部分も時間外割増賃金を算定する際の基礎賃金に算入され、使用者側が考えていたものよりも高額の基礎賃金をもとに時間外割増賃金が計算されることになるケースもあります。過去3年分の残業代を請求されることで、数百万円単位の請求に発展することも珍しくなく、経営に与える影響は甚大です。また、アルバイトやパートが多い飲食店では、シフト管理や勤怠管理が重要です。しかし、シフト勤務時間が毎回バラバラであったり、短時間勤務と長時間勤務が混在し、しかも欠勤やシフト変更も多く、その管理は複雑です。また、労働時間の考え方を正しく理解していないことなどから、タイムカードの打刻と実際の労働時間が一致しないという問題が頻発します。例えば、営業時間後の片付け・賄いの準備を待つ時間・着替え時間が「労働時間に含めるか否か」が争いになったり、休憩時間とされている時間が、法的に「休憩時間」といえるのか否かについて争いになることがあります。裁判例では「使用者の指揮命令下にある時間」は労働時間と判断されるため、店側の一方的な判断は危険です。更に、飲食店では、店舗の責任者である店長は「管理監督者」であるとして残業代を支払わないケースが散見されます。しかし、労働基準法上の「管理監督者」としての要件を満たしていない場合は、残業代の支払いは必要です。裁判例では、形式的に「店長」という肩書きがあっても、経営者と一体的な権限を持たず、労働時間が厳格に管理されている場合などは、管理監督者とは認められないと判断されています。職務内容、責任と権限、勤務態様等の実態に応じた適切な賃金管理が求められます。

(2) アルバイトの雇止め
アルバイトを含む非正規雇用者が多い飲食業では、解雇や雇止めをめぐる紛争が発生することも多いです。「シフトに入れない」「能力不足を理由に契約更新しない」といった対応が、実質的には不当解雇や不当な雇止めと判断されることがあります。能力不足であることを証明するのはかなり難しいため、改善指導記録などの客観的資料を残すなどの対応も必要です。また、長期にわたって勤務し、契約の更新が繰り返されている場合などは、裁判所は「雇用継続への合理的期待がある」とし、雇止めを無効とすることもあります。そのため、安易な雇止めは危険であり、専門家である弁護士に相談して慎重に手続きを進める必要があります。
(3) パワハラ・セクハラ
上下関係があり、人間関係が密接な職場環境である飲食店では、店長や先輩スタッフによるパワハラやセクハラがトラブル化することもあります。「注意・指導のつもりがパワハラと受け止められる」、「飲み会の誘いがセクハラと受け止められる」など、個人の感覚と法的評価のずれがハラスメント発生のリスクを拡大させます。ハラスメントは単に従業員間のトラブルということではなく、使用者にも法的にハラスメント防止措置義務が課されています。適切な対応を講じないと使用者自身も責任を問われることになりますので、しっかりと対策を講じましょう。
(4) 外国人労働者をめぐる問題
日本経済のグローバル化や労働力不足に伴い、飲食店でも多くの外国人労働者が活躍しています。厚生労働省の発表では、令和6年に飲食サービス業で働く外国人労働者の数は約22.9万人であり、外国人労働者の約10%を占めます。彼らは今や、店舗運営に不可欠の存在です。しかし、外国人労働者を雇用する際には、日本人従業員とは異なる注意点があります。外国人労働者を雇用する際に、まず確認すべきは「在留資格」と「就労の可否」です。在留資格の範囲外で就労させた場合、事業者に刑事罰や入管法違反の行政処分が課されますので、注意が必要です。
ア 在留資格の確認
在留カードやパスポートで、在留資格、在留期間、就労可否の記載を必ず確認しましょう。「就労不可」と記載されている外国人を雇用することはできま せんし、自社の業務内容と在留資格で定められる活動内容がマッチしていない場合は雇えません。
イ 就労時間の上限
留学生の場合、原則として週28時間以内の就労が許可されています。複数のアルバイトを掛け持ちしている場合でも、合計で週28時間を超えてはいけません。そのため、自社では週28時間以内の勤務であっても他社でアルバイトを掛け持ちしていると、知らずに入管法違反として摘発されてしまうというケースもあります。
ウ 雇用契約書・労働条件通知書の交付
外国人労働者に対しても、日本人と同様に労働条件通知書の交付が義務付けられています。日本語が不得意な場合は、母国語や分かりやすい言語で作成しましょう。後々のトラブルを防ぐためにも、労働条件は明確に書面で示すことが重要です。

まとめ

以上の通り、飲食店に多い労働問題は、次のとおりです。

・残業代請求
・アルバイト雇止め
・パワハラ・セクハラ
・外国人労働者との契約・労働条件問題
経営者の「現場の常識」と裁判所の判断には大きなズレがあります。さらに外国人労働者の場合、そのズレが拡大しやすく、経営リスクが一層高まります。
そこで、経営者としては、次のような予防策を講じておく必要があります。
(1) 労働時間を客観的に管理する
シフト・打刻・実労働時間を一致させる
片付けや賄い時間も含めて記録
外国人労働者に対しても「労働時間ルール」を母国語資料で説明
(2) 契約書・規則を整備し、外国人には母国語説明を徹底すること
固定残業代は「対象時間数・算定方法」を明記
雇用契約書を必ず交付し、外国人には母国語翻訳や口頭説明を加える
雇用契約更新時は「自動更新ではない」旨を明示
(3) ハラスメント防止体制を整えること
指導とパワハラの境界を研修で明確化
苦情窓口を設け、労働者が相談しやすい体制を整える
(例:多言語対応の相談窓口)
(4) 解雇・雇止めは慎重に進めること
能力不足を理由にする場合は、改善指導記録を残す
外国人労働者に対しても、母国語説明を行い、誤解を防ぐ
労務トラブルを未然に防ぐことが、結果的に人材の定着と経営の安定につながります。もし対応方法に不安がある場合や既にトラブルが生じている場合は、早めに弁護士にご相談ください。飲食店の実情を理解したうえで、最適な解決策をご提案いたします。

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